垂直に伸びる背骨_26 太極基本功(最終回)

さてさて、感慨深いことに

いよいよこの連載『背骨の伸長』も最終回を迎えるわけではあるけれど・・・

「って、ちょっと待て!お前、前回は、次は新連載の始まりだっつっただろうが?!」、「楽しみにしてたのに何だよ?フカシかよっ!?」って憤慨されているそこのあなた・・・ええ、確かに私もそう言いましたがね、ただ、実際に新連載『氣と意識のトレーニング』の原稿に取り掛かってみて改めて気付いたわけなんですよ、『氣と意識のトレーニング』の基本功、まあ言ってみれば基礎鍛錬みたいなものが、実は『背骨の伸長』における、最終形態、奥義だったってことに(泣)!!

そう、『背骨の伸長』の連載を始めた五年前から、ただひたすらにこの奥義『太極基本功(たいきょくきほんこう)』を目指して走り続けて来たわけで、でも何とそれが『氣と意識のトレーニング』においては基本にしか過ぎなかったという(※)・・・いや〜自分の構想の壮大さに我ながら感心してしまうわ〜(いきなりの自画自賛)

というわけで、この俺様が『奥義』というのだからそれ相応の内容が含まれていると信じてもらってもいいよ♡(しかも上から目線っ?!)

(※)実際、街の太極拳教室などでは準備体操として行われている

ま、つってもね、見た目はただフワフワと腕を上げ下げしてるだけなんで、その真の意味、価値なんてほとんどの人達には気付いてもらえないと思うけど、ただそれではあまりにも勿体無いので、不詳、私めがその奥義に日の目を見せてあげましょう!と立ち上がったわけです。

これからご紹介するこの基本功には、冗談抜きで太極拳の(少なくとも楊式太極拳の)極意が内在されているので、長く続けてもらえれば健康面においても武術的な面においても絶大な効果があると信じています。どうぞ心して最後までお読みくださいますように!!

というわけで、まずは動画でその動きを確認していただくとしよう。

「VTR スタートぉ〜!」

太極基本功

太極基本功・原理

いかがであっただろうか?

簡単そうだよね、見た目には?

でもね、この運動の真の効果を手に入れたいのなら、姿勢や動作や意識に関するものまで幾つもの要点を守ってもらわなくちゃいけなくなる。そのあまりの多さに、きっとのび太なら「ドラえも〜ん暗記パン出して〜!!」って、速攻、泣きを入れるのは間違いないくらい(それはすごいよね!)

読者諸兄に嫌気が差されないうち、なし崩しにどんどん進めて行っちゃう Yo〜!!

れっつら、ドン!!

【注意】

ここにご紹介する運動の「呼吸」は『逆腹式呼吸』がベースになっています。このページからご覧になられた方は、ご面倒でも、一度『逆腹式呼吸』がどういうものかを予習されてから読み進まれることをお勧めします。

逆腹式呼吸の実践

それでは、まずは姿勢の要点から。

姿勢の要点

・顎を引きうなじを楽に伸ばす

・肩はいからせない
(特に肩甲骨をゆるめる)

・胸は反らずににゆったりとくつろげる

・腕を上げた時、肘は下に垂れる
(肩甲骨がゆるんでいれば自ずとそうなる)

・骨盤と股関節をゆるめる

・足先は前方に向け肩幅に開く

・全身をゆるめる

いきなりこんだけの注意点を挙げられると、もうめんどくさくなってやりたくなくなっちゃうよねえ?血液型B型の俺なんか特にそうだったもん(笑)だけどこれらの要点は何百年もかかって先人が見つけてくれた宝のようなもので、努力して守っていれば知らず知らずのうちに極意が身に付いているような、言ってみれば『身体に隠された秘密を解く鍵』のようなものなので、どうか辛抱強く取り組んでいただきたい。

次に動作の要点。

動作の要点

・息を吸いながら腕を上げる

・その際、膝を少し伸ばして重心を上げる
(膝は伸びきらない)

・息を吐きながら腕を下げる

・その際、膝を少し曲げて重心を下げる
(『立つ腰』となる = 腰が中立となる)

・重心を下げる時には特に全身をゆるめる

・全ての動作(手足も含む)は柔らかく途切れがないようにする

ここで特に注意していただきたいのは重心を下げる(落とす)際の脱力であって、それこそ『これ以上 力を抜いたら倒れてしまうくらい』の感覚で、全身、その中でも特に脚と腰の力をゆっくりと(※)ゆるめていっていただきたい。最初は感覚が掴めずに難儀されるかとは思うけれど、この事によって、健康上、習熟すれば武術的な面においてもプラスの効果が発揮されるからであって、日頃、筋トレなどで鍛えていらっしゃる方々には「それでは脚と腰の筋肉が鍛えられないではないか?!」とのお叱りを受けるかもしれないけれど、ここは一つ我慢をされて最後までお付き合いいただければと願う。

また、手足や呼吸も含めた全ての動作において柔らかく途切れのないように心がけていただきたい。その状態を太極拳では『連綿円合(れんめんえんごう)』というのだけれど、この状態が保たれてこそ、血液を始めとする体液の循環が促され、また後述する武術的な勁さ(つよさ)も養われるということに繋がるのだから。

(※)武術的な用法ではいきなりストンと重心を落とすものだけれど、慣れないうちにそれをやってしまうと、太腿の筋肉を緊張させたまま、本質に辿り着けないうちに終わってしまうことになるので。もどかしいかもしれないけれど、優しく優しく、柔らか〜にお願いいたします♡

重心はゆっくりと下げる

お次は呼吸の要点をば。

呼吸の要点

・息は鼻から吸って鼻から吐く
(腹圧が高まって口から吐く時は細く長く)

・腕を上げながら胸に息を吸う
(その際、胸が膨らむ)

・腕を下げながら腹で息を吐く
(その際、腹が膨らむ=「立つ腰」)

・呼吸は動作に合わせて自然に

(特に「止息=息を止める」に於いては)

この連載ではお馴染みの『逆腹式呼吸』を動作と合わせて行うわけだけれど、呼吸法を単独で練習するよりも動作を併用する方が遥かに楽に呼吸出来ることに気が付いていただけることと思う。腕を上げる動作はそのまま胸郭を広げてくれるし、下げる動作は横隔膜の降下を促してくれるというわけで、何も考えずにただひたすらこの運動を行なってさえいれば、長い年月のうちに自然と深い逆腹式呼吸が身に付くという寸法なわけだけれど、意識的に呼吸を行えばその分上達は早く、また得られる恩恵(←強壮なる心身)も大きなものとなるはずだから。

ただし、ここで注意していただきたいのはあまり呼吸にこだわらないでいただきたいということ。この運動の目的はあくまで『呼吸と動作を一致させる』ことであって(全ての上達の極意)、意識的に呼吸をコントロールしようとすればするほど互いの連携(呼吸と動作の)は乖離していくこととなる。「身体をコントロールしよう」と強く意識するのは何らかの運動を学習する際に必須の要件ではあるのだけれど、逆にそれが仇となり、高度な領域へとシフトする際の障壁にもなってしまうというのは上達に隠された落とし穴ともいえよう。

なので、ここでは『呼吸と動作を一致させる』ことに意識を集中させ(そのコツは後述するように「あまり意識をしない」という事)動作と合わせて自然に呼吸をする事を心がけていただきたい。特に「止息=息を止める」に関してはほとんど意識しなくとも構わないと思っている(これまでの呼吸法編では完璧に意識的に行なってきたけれど)柔らかい身体の動きに合わせて行なってさえいれば、息は自ずと出入りしてくれるし、その狭間でいつの間にか息が止まっているという感覚になるので。

動作に合わせて自然と息が入ってくる

「止息=息を止める」は自然に

最後に意識の要点を。

意識の要点

・意識の配分は、呼吸に三割、動作に三割、あとはボンヤリ(笑)

・身体にお任せする意識で

・型(動作)から呼吸を教わる意識で

この運動においも、そして今後の連載『氣と意識のトレーニング』でも強調されるであろう意識の持ち方は『ボンヤリする事』に尽きるといえよう(笑)ボンヤリっていうと語弊があるかもしれないけど、『積極的に受け身であろうとする態度』を指すのであって、今の言い方でいえば『左脳をオフにする』とでもいうのかな? 現代の人達は何が何でも意識的にコントロールしようとする傾向があるみたいだし、尚且つそれが出来ると信じている節があるけれど、実際(脳を含めた)身体内部の動きを全てコントロールする事など出来るわけもなく、コントロールしているように思えても本当のところは僅かに覗いている氷山の一角を捕まえているに過ぎないわけで、無意識下で粛々と行われている、身体の、大袈裟にいえば自然の営みに耳を傾け、それと同調・協調していこうとするのがこの運動の(東洋的な身体文化の)目的ではある。

というわけで、呼吸と動作を制御しようとする意識はそれぞれ三割ずつ、後はボンヤリと、抽象的な言い方だけれど『身体の声に耳を傾ける』ように心がけていただきたい。そうすれば、時間は掛かるとは思うけど、必ず目指すべきゴール『背骨の伸長(真の健康)』へと辿り着けると思うので。

回数について

回数はワンセットを10〜30回として1日に朝晩2セットくらい行えばよろしいかと思う。朝は朝食の前、晴れていれば窓を開けて新鮮な空気を部屋に入れてから、夜は寝る前、無理に換気はしなくてもよいので、ストレッチ等で軽く全身をほぐしてから行う。もちろん鍛錬目的には違いないので、ガッツリやりたい人は昼間だろうが何だろうが、場所はオフィスだろうがどこだろうが、100回だろうが200回だろうが行ってもらっても大丈夫(笑)ただし即効性はないので、やはり、毎日コツコツ少しずつ行うのが賢明かと思う。

一口アドバイス

姿勢の要点では足先は前方に向けると説明させてもらったけれど、各自の骨格・身体の癖によっては、足先を内に向けたり(内股)外に向けたり(外股)する方が『立つ腰』に(腰が中立に)なり易かったりもする。もちろん、ある程度の練習量をある程度の期間こなさなければ本質的な感覚は得られないものだけれど、それでもなかなか成果が得られない場合には基本をあえて外れてみるのもアリだと思っているので、そういった方達には是非お試しいただきたいと思っている。ここに載せている情報は、一人でも多くの方達に本質(この場合は『背骨の伸長』)に辿り着いていただきたいが故であって、何らかの流派性を主張するものでは決してないのだから。

脱力しながら重心を下げる(落とす)理由

さてさて、重心を下げる(落とす)際に『これ以上 力を抜いたら倒れてしまうくらいの脱力』をしてくださいと申し上げたけれど、それは如何なる理由からかといえば、端的に言って『背骨の伸長を促す力が倍増する』からなのだ。

連載の最初からお付き合いいただいている方々には既にお馴染みのように、背骨の伸長を生み出す力は逆複式呼吸による腹圧で発生した『腹腔と骨盤底筋群の張力(ストレッチパワー!)』であって、それらが背骨を一個一個押し上げるように頭頂部まで伝わっていくわけだけれど(下の二つの図参照)

腹圧が腹腔と骨盤底を押し広げる

張力が頭頂まで伝達される

それとは別に重心を下げることによって床からの反発力が生じ、それが張力となって脚裏を上り、ついには背骨にまで到達するという現象がある(詳細は後述)

足裏・脚裏からの張力

これらの異なる二つの張力が合わさるので(ベクトルの合成のように)背骨の伸長もより強く引き起こされるという理屈になる。正に「二倍、二倍!!」の高見山も真っ青の合わせ技ではなかろうか(分からないお友達はお父さんお母さんに聞いてね♡)

床からの反発力

さてさて、ここからは原理的なことを、特に反発力に関する説明をしていきたいと思う。

中国武術ではよく「床からの反発力をもらう(借りる)」という表現をするのだけれど、それはどういうことかというと、床に対して垂直に重心(体重)を落とせば下の図のボールのように自分自身の弾性を使って跳ね返ってくるというのは容易にご理解いただけると思う。

この現象はスポーツ全般に観察されることで、例えば近代格闘技の基礎的なパンチの構造を図式化すれば下の図のようになるわけで、この図からは筋肉の弾性とそこから生まれる張力を上手く利用した様子が観察されると思う。

ところが、中国武術、特に太極拳になるとこの認識がガラガラと音を立てて崩れることになる。なぜなら、太極拳の基本的な攻撃は(全てではないけれど)下のようにストンと身体を沈めたまま、それで終了するからである(笑)

外見からは近代格闘技のパンチに見られるような筋力の(張力の)伝達が全く観察されないどころか、前方に(相手に)対する重心の移動すら見られないのだから、やってない人間からすればもはや意味不明の事態が生じていることとなる。そう、 “イミフ” なのである(←最近覚えた♡)

しかし中国武術の弁護をさせてもらうなら、やってる本人の主観としては、ストンと重心を落としたその瞬間から、足裏から脚裏を通り、背骨を駆け上がって最終的には掌に行き着く『ある種の力の流れ』がハッキリと感じられているわけで(これを『勁(けい)』と呼ぶのだけれど)実際にそれを受けている相手にも相応の衝撃力が伝わっているものなのである。

ならばこれをどう説明するのかというと、中国武術の世界では昔から『人体は水の入った皮袋である』という例えがあって、それは全ての技法に通ずることではあるけれど、床からの反発力に限っていうならば、水は非圧縮性(押しても縮まらない)の流体であるが故に、下の図のように穴を開けたフタで水を下方に圧縮するなら勢いよく上に飛び出すのは容易に理解していただけることと思う。

要するに「床に向かって身体中の水分を下げられるとしたら(そんなことは無理だけど)行き場を失った水分は再び上に上ってくるじゃん?」ってことなんだけれど、まあ、実際『ふくらはぎによる血液のポンプ作用』は第二の心臓とも呼ばれるくらいだし、脳と背骨の中には『脳脊髄液』という液体で満たされていてそれが絶えず循環しているというのだから、そしてこの連載の主眼でもある『背骨の伸長』はその髄液の循環を活性化させてくれるというのだから(←正にこれこそがこの連載の隠された目的!)この『人体は水の入った皮袋である』という認識は健康面に於いてはある意味正しいといっても過言ではないと思う。

反発力の正体

ただし、上記の理屈だけで大の男を悶絶せしめる程の武術的威力が説明仕切れるのかというと甚だ疑問ではある(その理屈の有用性は十分に認めらがらも)それでは足裏から発生して背骨を駆け上る運動エネルギーの正体は何かというと、筆者は『筋膜と腱や靭帯による張力の伝達』によるものと考えている。

筋膜とは最近は『筋膜リリース』という言葉も巷に溢れていて一度は耳にした方もおられるとは思うけど、一言でいえば筋肉を包む薄い膜のことであり、そして全ての筋肉はその膜に覆われていて、筋肉がスムーズに伸展するということは隣り合う筋肉と筋肉の膜同士が、ヌルヌル、スルスルと滑り合っているからであって、例えばコリや痛みなどのように筋肉が上手く動かせなくなるという背景には、この、筋肉と膜、もしくは膜同士の癒着があるからだともいわれている(それらを剥がして滑らかな状態に戻してあげるのが筋膜リリースというわけ)

また、隣合う筋膜同士は互いに連携し合っているわけで、観察の眼を全身に向けるなら、全身は筋膜のネットワークで覆われているといってもよく、肩の痛みの根本原因は脚の裏の筋膜の癒着だったりもするわけで、ホリスティックに身体を観察する者には必要不可欠の視点となっている。

というわけで、先に述べた『これ以上 力を抜いたら倒れてしまうくらいの脱力』をしても なお立っていられる理由とは、これら『筋膜と腱や靭帯による張力のネットワーク』によるものであって、建物に例えるならテントの構造といってもよく、「骨組み(人体でいえば骨格)」を支えるのは「ロープ(腱や靭帯)」や「シート(筋膜)」の『張力』であって、それらが絶妙にバランスを取り合って全体の構造を支えているというわけなのだ。

それに対して大腿四頭筋や大腿二頭筋を緊張させて踏ん張るという構図は、鉄筋やコンクリートの剛構造の建物に例えられるわけだけれど、読者諸兄においてはこの二つの構造の違いを(張力によるものと剛力によるもの)十分深く認識しておいていただきたい。

張力によって支え合うテント構造

話を本筋に戻すと、最近の学説には『筋筋膜経線(きんきんまくけいせん)』またの名を『アナトミートレイン』というものがあって、身体を支えるだけではなく、それら『筋筋膜経線(筋膜と腱や靭帯との連携)』を介した張力が連続的に伝わることによって運動エネルギーへと変換されるという超積極的な理論が展開されていたりするのだけれど、これこそが武術的な意味における「床からの反発力をもらう」ということの構造的な説明になるわけで、ここにきてようやく東洋の身体技法を西洋の運動生理学で説明できるフェーズ(局面)に来たなぁ〜と感慨もひとしおなのである。

だからといって前述した『人体は水の入った皮袋』という認識が古くて使いもにならないものだとは断じて言えないわけで、逆に、西洋の科学がいよいよ東洋の文化に迫り来るこの時代、より重要になってくる考え方だといっても言い過ぎではないと思う。何故なら、例えばフィットネススタジオなんかで「さあ皆さん、足裏の足底筋膜からアキレス腱を通して仙結節靭帯まで張力を伝えましょ〜♡」とか言われたって出来るわけないよね?俺だって無理だよ(笑)「運動生理学的に構造を解明する」事とそれを「具体的な運動として学習者に伝える」という事はまた別の問題として取り扱わなければならないということなのだ。

そこへいくと東洋の身体文化に古くから伝えられる『口伝』というものには現代の人々が想像する以上の学習効果があると確信している。例えば武術の世界では『人体は水の入った皮袋』からの派生として『足の裏から水を吸って掌から吐き出す』という教え(イメージ)があるのだけれど、それを一心にイメージして型を行えば、時間はかかるけれど、正確に筋筋膜経線を通して張力を伝達させることが出来るようになるというわけなのだ。

昔の人の洞察力は流石だな〜との驚きを感じると共に、これだけの文化的遺産を残してくれたことへの感謝の念を禁じ得ない。

このイメージ、大事に使ってください♡

今後の展開

というわけで、長きに渡ったこの連載『背骨の伸長』も遂に最終回を迎えるわけではあるけれど(ホントかよ?)以前からお約束していた『背骨の伸長』の為のストレッチやトレーニング方法は『氣と意識のトレーニング』とはまた別の連載に引き継いで行ければと思っている。

それは今回初めてご紹介した『筋膜と腱や靭帯』に関するもので、中国武術には『伸筋抜骨(しんきんばっこつ)』という言葉があるけれど、それは先に説明させてもらった「足裏・脚裏からの張力」を「腹腔・骨盤底筋群からの張力」と合流させ、それを背骨を通して掌や指先にまで伝えるという、技というか『技の基礎となる身体のあり方』を指しているのだけれど、その状態に至ると全身の関節という関節が引き延ばされるように感じられ、言葉の通りに骨が抜けるような感覚を覚えるわけで(実際には関節の軟骨が伸びているだけで抜けはしないけど)、そしてそれは中国独自のものではなく、例えば日本語にある「あいつは筋金入りだ!」という時の『筋金(すじがね)』という言葉にも、おそらく『伸筋抜骨』と同じような身体感覚がベースとしてあると筆者は考えるのだけれど(※)今後は『氣と意識の鍛錬』に加えてその事をも伝えていけたらと思っている。

(※)二十代の前半、まだまだ筋肉ムキムキだった頃、設備の現場で一緒になった、初老の、しかも体格は痩せてて骨と皮だけの先輩設備マンが、俺が渾身の力を込めても回せなかったボイラーの蒸気バルブ(←でっかいヤツ)をただの一踏ん張りで開けてしまったのには驚かされた。きっとあれが「筋金が入った」状態だったのだろうと思う。

なので、自分が世の中に伝えたいと思っている情報は、今回完結した『背骨の伸長』と次回から始まる『氣と意識のトレーニング』、そしてそれと並行して連載されるであろう『筋膜と腱や靭帯に関するトレーニング』(名前はもう決めてるよん♡『伸筋抜骨への道』っていうのさ)の三つが合わさってようやく完結するので、気の遠くなる話ではあるけれど最後までご愛読の程よろしくお願いいたしま〜す!!

・・・完

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by genshu-juku
| 2019-10-20 09:44
| 垂直に伸びる背骨(連載)
|
Comments(2)

Commented
by
YK
at 2019-11-06 21:28
x

本当にすばらしい記事をありがとうございます。
「はぁ~、そんなことになっていたのか(感嘆)」と読みながら感じていました。
特に、皮袋という所≪ボールが跳ねる図+圧縮されて水が飛び出る図≫は、(別に、私が実際にできるわけではないのですが)こんな風になってるんだぁと感心しきりでした。
本当にありがとうございます。
ただ、今回の記事、実行するうえで、ものすごく難しいと感じました。
それは、【足裏・膝裏からの張力】という概念が急に出てきたからです。
「ええッ!?聞いてない!!」と、(直接お会いしていないので)こっそり(しかし、ものすごくしっかり)教えていただいている身にもかかわらず、「ええッ!!!」と感じてしましました。
今まで、一歩一歩進んでまいりましたが、「あれ、なんか向こう岸見えないぐらい大きな河(足裏・膝裏からの張力という河)が流れてないか?」という感じでした。が、しかし、【足裏・膝裏からの張力】は次回の伸筋抜骨への道に続いているようで、「あ、どうやら佐藤先生はまだ見捨てずにお慈悲をかけてくださりそう!」と思いました。
すごく楽しみにしております。
何度も何度も繰り返し言いますが、本当に本当に佐藤先生はすごい人です。
追伸
今回の動作一生懸命やっていきますが、なにぶん【足裏・膝裏からの張力】ってなんだろう??って感じなので、『氣と意識のトレーニング』のスタート地点に立てる気がしないです。(でも、ワクワクしてます!)
(というか、いまさらながら『腹腔・骨盤底筋群からの張力(これは今まで連載していただいた”垂直に伸びる背骨”ですよね?これをやると、まさに”垂直に伸びる背骨2”にある『背骨の下側から何かでっかい芋虫かなんかがウニウニモゾモゾと伝い登ってくるような何人もの極上の腕を持った指圧師さん達によってたかって背骨周りを指圧をされているようなそんな絶妙な感覚を味わえる(引用終わり)』ですもん)』を本当に丁寧に教えてくださっていたんだと思いました)
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Commented
by
genshu-juku at 2019-11-07 17:24

YKさん
ご感想をありがとうございます。
ありゃ〜、また先走っちゃいましたね(汗)申し訳ありません。『足裏・脚裏からの張力』に関しましては、お察しの通り、『伸筋抜骨への道』のイントロダクションと捉えていただいて結構です。なので、今感覚が分からなくても一向に構いません。
というか、それだけ『背骨の伸長』の感覚を掴んでおられることに驚きを隠せません。まさか僕の情報を元にそこまで辿り着く方が現れるなんて夢にも思っていなかったものですから(笑)もう100点満点です!「ロボコン、合格!!」です(笑)
何故なら、『伸筋抜骨』に関してももちろんですが『氣と意識』に関しましても『背骨の伸長』は、重要な役割、基本となってくれるからです。なのでそこまで『背骨の伸長』の感覚をお持ちであるならば、もう大船に乗ったつもりで安心してくださって結構ですよ。必ず更なる高みへとお連れしますので!
また、もしご存知でないようでしたら、番外編としてご紹介した『ゆる体操』も是非お試しください。特に公式無料動画に挙げられている「魚クネ」「いるかクネ」「足ネバ」は『足裏・脚裏からの張力』を養成するのには打って付けのメニューですので。また、日々のメンテナンスには「すねプラ」「膝コゾ」「腰モゾ」の三セットをお勧めします。YKさんのように既に背骨の伸長がお出来になっている方なら、これらの脚と腰を主体とした動きの「波」が背骨を通って頸部にまで届くのが感じられるはずですので。
それでは、ようやく一区切りついたところで、これから本格的に新しい連載に向かおうと思います。
ご声援の程どうぞよろしくお願いいたします!!

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垂直に伸びる背骨_26 太極基本功(最終回)


さてさて、感慨深いことに

いよいよこの連載『背骨の伸長』も最終回を迎えるわけではあるけれど・・・

「って、ちょっと待て!お前、前回は、次は新連載の始まりだっつっただろうが?!」、「楽しみにしてたのに何だよ?フカシかよっ!?」って憤慨されているそこのあなた・・・ええ、確かに私もそう言いましたがね、ただ、実際に新連載『氣と意識のトレーニング』の原稿に取り掛かってみて改めて気付いたわけなんですよ、『氣と意識のトレーニング』の基本功、まあ言ってみれば基礎鍛錬みたいなものが、実は『背骨の伸長』における、最終形態、奥義だったってことに(泣)!!

そう、『背骨の伸長』の連載を始めた五年前から、ただひたすらにこの奥義『太極基本功(たいきょくきほんこう)』を目指して走り続けて来たわけで、でも何とそれが『氣と意識のトレーニング』においては基本にしか過ぎなかったという(※)・・・いや〜自分の構想の壮大さに我ながら感心してしまうわ〜(いきなりの自画自賛)

というわけで、この俺様が『奥義』というのだからそれ相応の内容が含まれていると信じてもらってもいいよ♡(しかも上から目線っ?!)

(※)実際、街の太極拳教室などでは準備体操として行われている

ま、つってもね、見た目はただフワフワと腕を上げ下げしてるだけなんで、その真の意味、価値なんてほとんどの人達には気付いてもらえないと思うけど、ただそれではあまりにも勿体無いので、不詳、私めがその奥義に日の目を見せてあげましょう!と立ち上がったわけです。

これからご紹介するこの基本功には、冗談抜きで太極拳の(少なくとも楊式太極拳の)極意が内在されているので、長く続けてもらえれば健康面においても武術的な面においても絶大な効果があると信じています。どうぞ心して最後までお読みくださいますように!!

というわけで、まずは動画でその動きを確認していただくとしよう。

「VTR スタートぉ〜!」

太極基本功

太極基本功・原理

いかがであっただろうか?

簡単そうだよね、見た目には?

でもね、この運動の真の効果を手に入れたいのなら、姿勢や動作や意識に関するものまで幾つもの要点を守ってもらわなくちゃいけなくなる。そのあまりの多さに、きっとのび太なら「ドラえも〜ん暗記パン出して〜!!」って、速攻、泣きを入れるのは間違いないくらい(それはすごいよね!)

読者諸兄に嫌気が差されないうち、なし崩しにどんどん進めて行っちゃう Yo〜!!

れっつら、ドン!!

【注意】

ここにご紹介する運動の「呼吸」は『逆腹式呼吸』がベースになっています。このページからご覧になられた方は、ご面倒でも、一度『逆腹式呼吸』がどういうものかを予習されてから読み進まれることをお勧めします。

逆腹式呼吸の実践





それでは、まずは姿勢の要点から。




姿勢の要点

・顎を引きうなじを楽に伸ばす

・肩はいからせない
(特に肩甲骨をゆるめる)



・胸は反らずににゆったりとくつろげる

・腕を上げた時、肘は下に垂れる
(肩甲骨がゆるんでいれば自ずとそうなる)


・骨盤と股関節をゆるめる



・足先は前方に向け肩幅に開く

・全身をゆるめる

いきなりこんだけの注意点を挙げられると、もうめんどくさくなってやりたくなくなっちゃうよねえ?血液型B型の俺なんか特にそうだったもん(笑)だけどこれらの要点は何百年もかかって先人が見つけてくれた宝のようなもので、努力して守っていれば知らず知らずのうちに極意が身に付いているような、言ってみれば『身体に隠された秘密を解く鍵』のようなものなので、どうか辛抱強く取り組んでいただきたい。

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次に動作の要点。



動作の要点

・息を吸いながら腕を上げる


・その際、膝を少し伸ばして重心を上げる
(膝は伸びきらない)


・息を吐きながら腕を下げる


・その際、膝を少し曲げて重心を下げる
(『立つ腰』となる = 腰が中立となる)



・重心を下げる時には特に全身をゆるめる

・全ての動作(手足も含む)は柔らかく途切れがないようにする

ここで特に注意していただきたいのは重心を下げる(落とす)際の脱力であって、それこそ『これ以上 力を抜いたら倒れてしまうくらい』の感覚で、全身、その中でも特に脚と腰の力をゆっくりと(※)ゆるめていっていただきたい。最初は感覚が掴めずに難儀されるかとは思うけれど、この事によって、健康上、習熟すれば武術的な面においてもプラスの効果が発揮されるからであって、日頃、筋トレなどで鍛えていらっしゃる方々には「それでは脚と腰の筋肉が鍛えられないではないか?!」とのお叱りを受けるかもしれないけれど、ここは一つ我慢をされて最後までお付き合いいただければと願う。

また、手足や呼吸も含めた全ての動作において柔らかく途切れのないように心がけていただきたい。その状態を太極拳では『連綿円合(れんめんえんごう)』というのだけれど、この状態が保たれてこそ、血液を始めとする体液の循環が促され、また後述する武術的な勁さ(つよさ)も養われるということに繋がるのだから。

(※)武術的な用法ではいきなりストンと重心を落とすものだけれど、慣れないうちにそれをやってしまうと、太腿の筋肉を緊張させたまま、本質に辿り着けないうちに終わってしまうことになるので。もどかしいかもしれないけれど、優しく優しく、柔らか〜にお願いいたします♡

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重心はゆっくりと下げる


お次は呼吸の要点をば。



呼吸の要点


・息は鼻から吸って鼻から吐く
(腹圧が高まって口から吐く時は細く長く)

・腕を上げながら胸に息を吸う
(その際、胸が膨らむ)


・腕を下げながら腹で息を吐く
(その際、腹が膨らむ=「立つ腰」)


・呼吸は動作に合わせて自然に

(特に「止息=息を止める」に於いては)

この連載ではお馴染みの『逆腹式呼吸』を動作と合わせて行うわけだけれど、呼吸法を単独で練習するよりも動作を併用する方が遥かに楽に呼吸出来ることに気が付いていただけることと思う。腕を上げる動作はそのまま胸郭を広げてくれるし、下げる動作は横隔膜の降下を促してくれるというわけで、何も考えずにただひたすらこの運動を行なってさえいれば、長い年月のうちに自然と深い逆腹式呼吸が身に付くという寸法なわけだけれど、意識的に呼吸を行えばその分上達は早く、また得られる恩恵(←強壮なる心身)も大きなものとなるはずだから。

ただし、ここで注意していただきたいのはあまり呼吸にこだわらないでいただきたいということ。この運動の目的はあくまで『呼吸と動作を一致させる』ことであって(全ての上達の極意)、意識的に呼吸をコントロールしようとすればするほど互いの連携(呼吸と動作の)は乖離していくこととなる。「身体をコントロールしよう」と強く意識するのは何らかの運動を学習する際に必須の要件ではあるのだけれど、逆にそれが仇となり、高度な領域へとシフトする際の障壁にもなってしまうというのは上達に隠された落とし穴ともいえよう。

なので、ここでは『呼吸と動作を一致させる』ことに意識を集中させ(そのコツは後述するように「あまり意識をしない」という事)動作と合わせて自然に呼吸をする事を心がけていただきたい。特に「止息=息を止める」に関してはほとんど意識しなくとも構わないと思っている(これまでの呼吸法編では完璧に意識的に行なってきたけれど)柔らかい身体の動きに合わせて行なってさえいれば、息は自ずと出入りしてくれるし、その狭間でいつの間にか息が止まっているという感覚になるので。

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動作に合わせて自然と息が入ってくる

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「止息=息を止める」は自然に

最後に意識の要点を。

意識の要点

・意識の配分は、呼吸に三割、動作に三割、あとはボンヤリ(笑)


・身体にお任せする意識で


・型(動作)から呼吸を教わる意識で

この運動においも、そして今後の連載『氣と意識のトレーニング』でも強調されるであろう意識の持ち方は『ボンヤリする事』に尽きるといえよう(笑)ボンヤリっていうと語弊があるかもしれないけど、『積極的に受け身であろうとする態度』を指すのであって、今の言い方でいえば『左脳をオフにする』とでもいうのかな? 現代の人達は何が何でも意識的にコントロールしようとする傾向があるみたいだし、尚且つそれが出来ると信じている節があるけれど、実際(脳を含めた)身体内部の動きを全てコントロールする事など出来るわけもなく、コントロールしているように思えても本当のところは僅かに覗いている氷山の一角を捕まえているに過ぎないわけで、無意識下で粛々と行われている、身体の、大袈裟にいえば自然の営みに耳を傾け、それと同調・協調していこうとするのがこの運動の(東洋的な身体文化の)目的ではある。

というわけで、呼吸と動作を制御しようとする意識はそれぞれ三割ずつ、後はボンヤリと、抽象的な言い方だけれど『身体の声に耳を傾ける』ように心がけていただきたい。そうすれば、時間は掛かるとは思うけど、必ず目指すべきゴール『背骨の伸長(真の健康)』へと辿り着けると思うので。

回数について

回数はワンセットを10〜30回として1日に朝晩2セットくらい行えばよろしいかと思う。朝は朝食の前、晴れていれば窓を開けて新鮮な空気を部屋に入れてから、夜は寝る前、無理に換気はしなくてもよいので、ストレッチ等で軽く全身をほぐしてから行う。もちろん鍛錬目的には違いないので、ガッツリやりたい人は昼間だろうが何だろうが、場所はオフィスだろうがどこだろうが、100回だろうが200回だろうが行ってもらっても大丈夫(笑)ただし即効性はないので、やはり、毎日コツコツ少しずつ行うのが賢明かと思う。

一口アドバイス
姿勢の要点では足先は前方に向けると説明させてもらったけれど、各自の骨格・身体の癖によっては、足先を内に向けたり(内股)外に向けたり(外股)する方が『立つ腰』に(腰が中立に)なり易かったりもする。もちろん、ある程度の練習量をある程度の期間こなさなければ本質的な感覚は得られないものだけれど、それでもなかなか成果が得られない場合には基本をあえて外れてみるのもアリだと思っているので、そういった方達には是非お試しいただきたいと思っている。ここに載せている情報は、一人でも多くの方達に本質(この場合は『背骨の伸長』)に辿り着いていただきたいが故であって、何らかの流派性を主張するものでは決してないのだから。

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脱力しながら重心を下げる(落とす)理由

さてさて、重心を下げる(落とす)際に『これ以上 力を抜いたら倒れてしまうくらいの脱力』をしてくださいと申し上げたけれど、それは如何なる理由からかといえば、端的に言って『背骨の伸長を促す力が倍増する』からなのだ。

連載の最初からお付き合いいただいている方々には既にお馴染みのように、背骨の伸長を生み出す力は逆複式呼吸による腹圧で発生した『腹腔と骨盤底筋群の張力(ストレッチパワー!)』であって、それらが背骨を一個一個押し上げるように頭頂部まで伝わっていくわけだけれど(下の二つの図参照)

f0074992_15342275.gif腹圧が腹腔と骨盤底を押し広げる

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張力が頭頂まで伝達される

それとは別に重心を下げることによって床からの反発力が生じ、それが張力となって脚裏を上り、ついには背骨にまで到達するという現象がある(詳細は後述)

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足裏・脚裏からの張力

これらの異なる二つの張力が合わさるので(ベクトルの合成のように)背骨の伸長もより強く引き起こされるという理屈になる。正に「二倍、二倍!!」の高見山も真っ青の合わせ技ではなかろうか(分からないお友達はお父さんお母さんに聞いてね♡)

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床からの反発力

さてさて、ここからは原理的なことを、特に反発力に関する説明をしていきたいと思う。

中国武術ではよく「床からの反発力をもらう(借りる)」という表現をするのだけれど、それはどういうことかというと、床に対して垂直に重心(体重)を落とせば下の図のボールのように自分自身の弾性を使って跳ね返ってくるというのは容易にご理解いただけると思う。

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この現象はスポーツ全般に観察されることで、例えば近代格闘技の基礎的なパンチの構造を図式化すれば下の図のようになるわけで、この図からは筋肉の弾性とそこから生まれる張力を上手く利用した様子が観察されると思う。

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ところが、中国武術、特に太極拳になるとこの認識がガラガラと音を立てて崩れることになる。なぜなら、太極拳の基本的な攻撃は(全てではないけれど)下のようにストンと身体を沈めたまま、それで終了するからである(笑)

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外見からは近代格闘技のパンチに見られるような筋力の(張力の)伝達が全く観察されないどころか、前方に(相手に)対する重心の移動すら見られないのだから、やってない人間からすればもはや意味不明の事態が生じていることとなる。そう、 “イミフ” なのである(←最近覚えた♡)

しかし中国武術の弁護をさせてもらうなら、やってる本人の主観としては、ストンと重心を落としたその瞬間から、足裏から脚裏を通り、背骨を駆け上がって最終的には掌に行き着く『ある種の力の流れ』がハッキリと感じられているわけで(これを『勁(けい)』と呼ぶのだけれど)実際にそれを受けている相手にも相応の衝撃力が伝わっているものなのである。
ならばこれをどう説明するのかというと、中国武術の世界では昔から『人体は水の入った皮袋である』という例えがあって、それは全ての技法に通ずることではあるけれど、床からの反発力に限っていうならば、水は非圧縮性(押しても縮まらない)の流体であるが故に、下の図のように穴を開けたフタで水を下方に圧縮するなら勢いよく上に飛び出すのは容易に理解していただけることと思う。

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要するに「床に向かって身体中の水分を下げられるとしたら(そんなことは無理だけど)行き場を失った水分は再び上に上ってくるじゃん?」ってことなんだけれど、まあ、実際『ふくらはぎによる血液のポンプ作用』は第二の心臓とも呼ばれるくらいだし、脳と背骨の中には『脳脊髄液』という液体で満たされていてそれが絶えず循環しているというのだから、そしてこの連載の主眼でもある『背骨の伸長』はその髄液の循環を活性化させてくれるというのだから(←正にこれこそがこの連載の隠された目的!)この『人体は水の入った皮袋である』という認識は健康面に於いてはある意味正しいといっても過言ではないと思う。

反発力の正体

ただし、上記の理屈だけで大の男を悶絶せしめる程の武術的威力が説明仕切れるのかというと甚だ疑問ではある(その理屈の有用性は十分に認めらがらも)それでは足裏から発生して背骨を駆け上る運動エネルギーの正体は何かというと、筆者は『筋膜と腱や靭帯による張力の伝達』によるものと考えている。

筋膜とは最近は『筋膜リリース』という言葉も巷に溢れていて一度は耳にした方もおられるとは思うけど、一言でいえば筋肉を包む薄い膜のことであり、そして全ての筋肉はその膜に覆われていて、筋肉がスムーズに伸展するということは隣り合う筋肉と筋肉の膜同士が、ヌルヌル、スルスルと滑り合っているからであって、例えばコリや痛みなどのように筋肉が上手く動かせなくなるという背景には、この、筋肉と膜、もしくは膜同士の癒着があるからだともいわれている(それらを剥がして滑らかな状態に戻してあげるのが筋膜リリースというわけ)

また、隣合う筋膜同士は互いに連携し合っているわけで、観察の眼を全身に向けるなら、全身は筋膜のネットワークで覆われているといってもよく、肩の痛みの根本原因は脚の裏の筋膜の癒着だったりもするわけで、ホリスティックに身体を観察する者には必要不可欠の視点となっている。

というわけで、先に述べた『これ以上 力を抜いたら倒れてしまうくらいの脱力』をしても なお立っていられる理由とは、これら『筋膜と腱や靭帯による張力のネットワーク』によるものであって、建物に例えるならテントの構造といってもよく、「骨組み(人体でいえば骨格)」を支えるのは「ロープ(腱や靭帯)」や「シート(筋膜)」の『張力』であって、それらが絶妙にバランスを取り合って全体の構造を支えているというわけなのだ。

それに対して大腿四頭筋や大腿二頭筋を緊張させて踏ん張るという構図は、鉄筋やコンクリートの剛構造の建物に例えられるわけだけれど、読者諸兄においてはこの二つの構造の違いを(張力によるものと剛力によるもの)十分深く認識しておいていただきたい。

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張力によって支え合うテント構造

話を本筋に戻すと、最近の学説には『筋筋膜経線(きんきんまくけいせん)』またの名を『アナトミートレイン』というものがあって、身体を支えるだけではなく、それら『筋筋膜経線(筋膜と腱や靭帯との連携)』を介した張力が連続的に伝わることによって運動エネルギーへと変換されるという超積極的な理論が展開されていたりするのだけれど、これこそが武術的な意味における「床からの反発力をもらう」ということの構造的な説明になるわけで、ここにきてようやく東洋の身体技法を西洋の運動生理学で説明できるフェーズ(局面)に来たなぁ〜と感慨もひとしおなのである。

だからといって前述した『人体は水の入った皮袋』という認識が古くて使いもにならないものだとは断じて言えないわけで、逆に、西洋の科学がいよいよ東洋の文化に迫り来るこの時代、より重要になってくる考え方だといっても言い過ぎではないと思う。何故なら、例えばフィットネススタジオなんかで「さあ皆さん、足裏の足底筋膜からアキレス腱を通して仙結節靭帯まで張力を伝えましょ〜♡」とか言われたって出来るわけないよね?俺だって無理だよ(笑)「運動生理学的に構造を解明する」事とそれを「具体的な運動として学習者に伝える」という事はまた別の問題として取り扱わなければならないということなのだ。

そこへいくと東洋の身体文化に古くから伝えられる『口伝』というものには現代の人々が想像する以上の学習効果があると確信している。例えば武術の世界では『人体は水の入った皮袋』からの派生として『足の裏から水を吸って掌から吐き出す』という教え(イメージ)があるのだけれど、それを一心にイメージして型を行えば、時間はかかるけれど、正確に筋筋膜経線を通して張力を伝達させることが出来るようになるというわけなのだ。

昔の人の洞察力は流石だな〜との驚きを感じると共に、これだけの文化的遺産を残してくれたことへの感謝の念を禁じ得ない。

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このイメージ、大事に使ってください♡

今後の展開

というわけで、長きに渡ったこの連載『背骨の伸長』も遂に最終回を迎えるわけではあるけれど(ホントかよ?)以前からお約束していた『背骨の伸長』の為のストレッチやトレーニング方法は『氣と意識のトレーニング』とはまた別の連載に引き継いで行ければと思っている。

それは今回初めてご紹介した『筋膜と腱や靭帯』に関するもので、中国武術には『伸筋抜骨(しんきんばっこつ)』という言葉があるけれど、それは先に説明させてもらった「足裏・脚裏からの張力」を「腹腔・骨盤底筋群からの張力」と合流させ、それを背骨を通して掌や指先にまで伝えるという、技というか『技の基礎となる身体のあり方』を指しているのだけれど、その状態に至ると全身の関節という関節が引き延ばされるように感じられ、言葉の通りに骨が抜けるような感覚を覚えるわけで(実際には関節の軟骨が伸びているだけで抜けはしないけど)、そしてそれは中国独自のものではなく、例えば日本語にある「あいつは筋金入りだ!」という時の『筋金(すじがね)』という言葉にも、おそらく『伸筋抜骨』と同じような身体感覚がベースとしてあると筆者は考えるのだけれど(※)今後は『氣と意識の鍛錬』に加えてその事をも伝えていけたらと思っている。

(※)二十代の前半、まだまだ筋肉ムキムキだった頃、設備の現場で一緒になった、初老の、しかも体格は痩せてて骨と皮だけの先輩設備マンが、俺が渾身の力を込めても回せなかったボイラーの蒸気バルブ(←でっかいヤツ)をただの一踏ん張りで開けてしまったのには驚かされた。きっとあれが「筋金が入った」状態だったのだろうと思う。

なので、自分が世の中に伝えたいと思っている情報は、今回完結した『背骨の伸長』と次回から始まる『氣と意識のトレーニング』、そしてそれと並行して連載されるであろう『筋膜と腱や靭帯に関するトレーニング』(名前はもう決めてるよん♡『伸筋抜骨への道』っていうのさ)の三つが合わさってようやく完結するので、気の遠くなる話ではあるけれど最後までご愛読の程よろしくお願いいたしま〜す!!

・・・完



by genshu-juku
| 2019-10-20 09:44
| 垂直に伸びる背骨(連載)
|
Comments(2)


Commented
by
YK
at 2019-11-06 21:28
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本当にすばらしい記事をありがとうございます。
「はぁ~、そんなことになっていたのか(感嘆)」と読みながら感じていました。
特に、皮袋という所≪ボールが跳ねる図+圧縮されて水が飛び出る図≫は、(別に、私が実際にできるわけではないのですが)こんな風になってるんだぁと感心しきりでした。
本当にありがとうございます。
ただ、今回の記事、実行するうえで、ものすごく難しいと感じました。
それは、【足裏・膝裏からの張力】という概念が急に出てきたからです。
「ええッ!?聞いてない!!」と、(直接お会いしていないので)こっそり(しかし、ものすごくしっかり)教えていただいている身にもかかわらず、「ええッ!!!」と感じてしましました。
今まで、一歩一歩進んでまいりましたが、「あれ、なんか向こう岸見えないぐらい大きな河(足裏・膝裏からの張力という河)が流れてないか?」という感じでした。が、しかし、【足裏・膝裏からの張力】は次回の伸筋抜骨への道に続いているようで、「あ、どうやら佐藤先生はまだ見捨てずにお慈悲をかけてくださりそう!」と思いました。
すごく楽しみにしております。

何度も何度も繰り返し言いますが、本当に本当に佐藤先生はすごい人です。

追伸
今回の動作一生懸命やっていきますが、なにぶん【足裏・膝裏からの張力】ってなんだろう??って感じなので、『氣と意識のトレーニング』のスタート地点に立てる気がしないです。(でも、ワクワクしてます!)
(というか、いまさらながら『腹腔・骨盤底筋群からの張力(これは今まで連載していただいた”垂直に伸びる背骨”ですよね?これをやると、まさに”垂直に伸びる背骨2”にある『背骨の下側から何かでっかい芋虫かなんかがウニウニモゾモゾと伝い登ってくるような何人もの極上の腕を持った指圧師さん達によってたかって背骨周りを指圧をされているようなそんな絶妙な感覚を味わえる(引用終わり)』ですもん)』を本当に丁寧に教えてくださっていたんだと思いました)


Commented
by
genshu-juku at 2019-11-07 17:24
YKさん
ご感想をありがとうございます。

ありゃ〜、また先走っちゃいましたね(汗)申し訳ありません。『足裏・脚裏からの張力』に関しましては、お察しの通り、『伸筋抜骨への道』のイントロダクションと捉えていただいて結構です。なので、今感覚が分からなくても一向に構いません。

というか、それだけ『背骨の伸長』の感覚を掴んでおられることに驚きを隠せません。まさか僕の情報を元にそこまで辿り着く方が現れるなんて夢にも思っていなかったものですから(笑)もう100点満点です!「ロボコン、合格!!」です(笑)

何故なら、『伸筋抜骨』に関してももちろんですが『氣と意識』に関しましても『背骨の伸長』は、重要な役割、基本となってくれるからです。なのでそこまで『背骨の伸長』の感覚をお持ちであるならば、もう大船に乗ったつもりで安心してくださって結構ですよ。必ず更なる高みへとお連れしますので!

また、もしご存知でないようでしたら、番外編としてご紹介した『ゆる体操』も是非お試しください。特に公式無料動画に挙げられている「魚クネ」「いるかクネ」「足ネバ」は『足裏・脚裏からの張力』を養成するのには打って付けのメニューですので。また、日々のメンテナンスには「すねプラ」「膝コゾ」「腰モゾ」の三セットをお勧めします。YKさんのように既に背骨の伸長がお出来になっている方なら、これらの脚と腰を主体とした動きの「波」が背骨を通って頸部にまで届くのが感じられるはずですので。

それでは、ようやく一区切りついたところで、これから本格的に新しい連載に向かおうと思います。

ご声援の程どうぞよろしくお願いいたします!!

引用元はこちらです。記事に関するご質問は引用元へお問い合わせください。https://genshu.exblog.jp/30836719